MADSAKI、満を持しての新作展 タイトル:『1984』を9月11日より、KKGにて開催します。
本展では、「マスターズオブザユニバース」の名のもとに展開されているマテル製、人気のおもちゃのシリーズ、コミックの表紙や、アクションフィギュアの包装を題材にしたMADSAKIの新作絵画、彫刻作品が展示されます。
本展のタイトル『1984』とは「マスターズオブユニバース」が米国にて、ブームの頂点であった年。もちろんジョージ・オーウェルのSF小説を想起させる年号でもありますが、その関連性はどこにあるのでしょうか?
1980年、MADSAKI、6歳の頃。英語を全く話せない状態で、彼は、日本の大阪からアメリカのニュージャージーのバーゲン・カウンティへ移住しました。知らない人からは人種を理由にばかにされたりからかわれたりする一方で、フレンドリーに接してくれたクラスメートのなかにも完全には溶け込めず、彼らとの間に大きな壁を感じていました。そういうわけで放課後は、友達と遊ぶかわりに家でひとりテレビアニメを見ることが多くなり、とりわけ熱中したのは、マテル社が開発した「マスターズオブザユニバース」という玩具を基にしたアニメ番組「ヒーマン&ザマスターズオブザユニバース」でした。
「ヒーマン&ザマスターズオブザユニバース」シリーズとは、マテル社のメディア・フランチャイズであり、SFと中世ファンタジーの世界観のもと、主人公のヒーマンが宿敵スケルターから自身の星を守るために戦う物語です。本シリーズは1982年に玩具(フィギュア)としてデビューし、その後テレビアニメ、コミックス、ゲーム、実写映画など、幅広いジャンルへ展開していきました。1980年代アメリカで育った子供なら、誰でも馴染みのあるシリーズとも言えるでしょう。
たくましい体躯をもつ金髪のヒーロー「ヒーマン」。子供向けテレビ番組の登場人物にふさわしく、どんなときも自分が置かれた状況と行動のひとつひとつをはっきりと自信満々に説明するヒーマンの、有無を言わさぬ調子で繰り出す教訓めいた解説は、MADSAKIにとっては途切れることなく耳に飛び込んでくる英語の教材であり、馴染みのない周囲の環境と自分との間に、文化的かつ言語的な絆をもたらしてくれるものでもありました。
継続的なリスニングを通じて彼の脳に蓄積されていった英単語の数々が、「ヒーマン」を通じて、ひとつの体系を形作るに至ります。その結果、まとまった文がすらすらと口をついて出てきて、MADSAKIはついに、自分の思いを、英語で声に出して伝えられるようになったのです。
つまり、ヒーマンこそ、MADSAKIにとって、文化の架け橋を作ってくれた作品であり、彼の人格形成の中核を担っているのです。
英語をマスターした年が1984年。そして、「マスターオブユニバース」が、ブームの頂点に達した年も、その年であったのです。
…で、オーウェル『1984』との関連性はというと…。
Appleが1984年の1月22日のスーパーボウルの時に放映した、有名なリドリー・スコット監督のマッキントッシュのCM。コンピューター業界最大手のIBMに挑むインディー企業Apple、という物語は、新しいコンピューター世代の台頭とともに、時代そのものがガラリと変わった象徴でもありました。その元ネタが、ジョージ・オーウェルの小説『1984』であり、権威と体制と個人の自由の相関性が書かれたものでした。つまりMADSAKIにとって、難攻不落の壁は言語であり、その壁を破ってくれたヒーローが「ヒーマン」であった、と。MADASAKIの人生における真のヒーローと世界観を描き出す、という意味において、オーウェルの『1984』も援用されたのです。
その年号を冠にした本展は、「マスターズオブユニバース」の世界を表すペインティングと、当時のおもちゃを約15倍に拡大した彫刻作品。そして、10歳の頃のMADSAKIのぎこちない笑顔の写真をモチーフにした絵画作品で構成されています。
ここ2年程、MADSAKIの人気は、桁外れな規模にまで膨らんでおり、その人気の中核は何なのか?作家本人はもとより、画商、オークショニアー、そして多くのファンもその理由が分からなかったと思います。
しかし、本展では、その理由の1つが紐解かれるキッカケにもなっていると思います。
不器用ながらも、既にあるイメージの数々を、缶スプレーをプシュー!プシューッ!と吹きつけて、一見簡単そうなトレス描写は、その線や色面はゆらゆらと頼りなく、上手い絵とはとても言えない、荒っぽい仕上がりながらも、それがMADSAKIの、サッパリうまくいかないコミュニケーションのほつれを、解きほぐすための処方箋として、作家の嘘偽りの無い心の声として、多くの共感を呼んでいるのです。
コロナ禍によって、展覧会開催が2ヶ月も遅れてしまいましたが、それ故に、各作品も慌てることなくジックリと完成させることが出来た。と作家自身、本展に自信を持っています。
そんな本展。感染リスクに十分に注意して、御来場いただけましたら幸いです。
村上 隆
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